遊覧図書室 1

『食卓に毒菜がやってきた』
瀧井宏臣著(コモンズ・1500円+税)
くだらないねぇ、つまんねえなあとぶつぶつ言いながらテレビのバラエティー番組をよく見るんですが、このところウケてるのが“雑学”モノで、
タレントたちが、えーっ、へえーって騒いでます。書店にはいろんな分野のうんちく本が並んでる。
私の本棚には日本各地の風土、歴史、自然環境、食、職、道具、といったことについて書かれた本が積まれてます。日本列島の人間の暮らしをとり
まくさまざまなことを知りたいと旅してきた私にとって、本は単に取材の資料ではなく軽いうんちく情報でもない貴重な教科書です。ま、私の本の
読み方もテレビの雑学番組的ノリで軽いんですが、見知らぬ土地を旅している時“小さな雑学”が写真の片隅にふいっとあらわれるのです。という
ことで、わが本棚から引き出した本を紹介しつつ、旅先で知ったことや日々思うことを綴っていきたいと思います。

『食卓に毒菜がやってきた』瀧井宏臣著(コモンズ・1500円+税)

中国で製造された冷凍ギョーザに有機リン系殺虫剤成分メタミドホス、ジクロルボスが混入していたという事件で、このところマスコミはおお騒ぎ
しています。
中国が農薬汚染大国であることは何年も前から言われていて、「毒菜(ドッチョイ)」を取材し中国の農薬汚染をルポした本書によると、中国
の農薬中毒患者数は年間で50万人以上、死者が1万人以上と推定されている。香港では、85パーセントが中国本土で栽培されたものを食べていて、
1980年代末から『毒菜』が深刻な社会問題になり多数の毒菜中毒患者が出ているという。91年に香港の公共放送が制作した番組で、取材班が禁止農
薬のメタミドホスを闇市場で手にいれ、中国農民の証言も紹介している。「香港ではきれいな野菜をほしがる。見かけがきれいだとよく売れるので
たくさん農薬をかける。かけてから二、三日で収穫し、販売している」
安価であることを理由にわが国の輸入農産物はどんどん増えていて、野菜の輸入先はトップが中国。山菜は国産だろうと思ったら大間違い。先日、
道の駅で売られてるたまり漬の袋の裏を見たら中国産でした。

今日、純国産の食品には何があるでしょうか。日本で栽培されている野菜のタネの採種場所はほとんどが外国。そこまでつめたら純国産モノはなく
なっちゃう。
私は1960年代から農村を巡って農作物にふれてきましたが、60年代は農薬がばんばん畑にまかれてましてね。撮影中に農薬散布の煙をかぶってひど
いめにあったこともありました。数年前日本でも土壌殺菌剤、殺虫剤の無登録農薬を使用した農家の野菜、果物が大量に破棄処分されたことがあり、
イチゴに有機リン系殺虫剤の使用が基準値より多く認められて回収されたこともありました。ま、それらの事件はごく一部の農家が行なったことな
んだけれど、農薬汚染の“温床”は日本にもあるということです。たて続けに各地でいろんな偽装食品が暴かれましたが、それらはみんな日本の犯
罪でした。
農産物を大量に作ろうとすれば完全無農薬栽培は不可能で、大量生産で、形がよく商品価値をあげるためには農薬に頼らざるを得ません。たとえば
メロンは果皮の網目の美しさで価値が変わるし、キュウリも形のいいまっすぐなものが好まれますからね。健康野菜だの有機野菜だの無農薬野
菜だのと食べものへの関心が高まってるようですが、虫食い野菜は相変わらず消費者から嫌われています。あるところで、無農薬栽培をしているの
だという畑を見たのですが、畑には虫に食われてほとんど芯だけになってまったようなキャベツがあって、蝶が乱舞してました。それらを都会のお
くさまたちがふつうの何倍かの値でお買いになる、と聞かされてへぇーッ。無農薬野菜を買ったおくさまが、虫がついていたッと驚いて捨てたとい
う話を聞いて思わず笑っちゃいましたが、いまの安心、安全食品への関心なんてそんなものなんですね。

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遊覧図書室 2

『新いわて気象風土記』
工藤敏雄(岩手日報社・1359円+税)
私が今住んでるところは、"これよりみちのく"への入り口、白河市ですが、この地が滅法寒い。冬の冷えはハンパじゃない。那須岳から冷たい風が
びゅうって吹きおろしてきます。春になっても冷えます。今年は四月に入って雪が降りました。毎年脱出を考えてきましたがうまくいきません。
桜の開花は北の仙台より遅く4月中旬に満開になりました。今年は花見をしようかなと思ったら冷たく強い雨と風でストーブつけて引きこもりでした。

『新いわて気象風土記』工藤敏雄(岩手日報社・1359円+税)

本書は、盛岡地方気象台から福島、仙台の気象官署、宮古観測所を歴任された著者が<岩手の気象がもたらす風土性と文化のかかわりあい>をテーマ
に1984年から書き続けてきた『気象風土記』の3冊めで、気象と人びとの暮らしを見つめる北の風物詩12カ月。四季折々の美しい言葉にふれていると、
季節の移ろいに<心の憩い>を持ちたいとしみじみ思う。興味深い話が次々出てくるのであっという間に1年が通り過ぎていきます。

1月。盆の上に雪でうさぎの形をつくったものを雪うさぎと呼んだ話。達磨大師の達磨人形が赤いのは東南アジアでは赤褐色の袈裟を着ている坊さん
が多いから。
3月。土が凍って歩道の敷石が隆起するように盛り上る現象を「凍上(とうじょう)」と言い、雪は少ないが寒気が強い地方に見られる現象。数セン
チの凍上で1平方メートル当たり数10トンから数百トンの力になるという。
岩手県水沢地方では、花が咲いてもまだ暖房している状態を「花見こたつ」と呼ぶんだそうです。北国の桜が咲くのは四月下旬ごろからで、花が咲い
ても寒い日があります。この時季の寒さをふつう「花冷え」と言ってますが、春寒波に見舞われる岩手では「寒の戻りという言い方のほうが合う」と
著者。

4月。桜の季節の曇天の日は「花曇り」。「少女期の胸の思いにも似た、訳のわからない憂いと感慨のこもる曇りの日」。いいですねぇ。私の年代が
ふんわり思い浮かべる少女像に、今の化粧した妙な色気を見せてる少女たちは重ならない。「落花の舞い」というとちょいと風流心って気分で、写真
コンテストでは決定的瞬間の金賞狙いのシーンとなりますが、農村地域では花を稲のシンボルとして受け止めていて、慌しく散ることがその年のコメ
の不作につながるという意味があるんだそうです。

ところで花見の名所というとカラオケ音や怒鳴り声にわめき声に嬌声が絡み合ってのドンちゃん騒ぎになりますね。毎年なんだかんだと言われながら
繰り返される花見の景色。私は団体で騒ぐのが好きじゃないので花見ってのにはこれまでほとんど縁がありません。まあ気の合った友と、どうだい
ちょいと花見酒ってのいこうじゃねぇか。お、いこ、いこ、なんて気分で赤ちょうちんってのがいいね。「酒なくしてなんのおのれがサクラかな」。

春の使者といえばツバメ。「ツバメのさえずりを、古くから伝えられている言葉で表すと、「土食って虫食ってしぶーい」といわれている。こうした
ものを「聞きなし」というが、ツバメは巣に泥とワラを使うし、食べ物は虫というわけで、この聞きなしはツバメの生態を大変正確に表現していると
いえよう」
「ツバメが低く飛べば雨近し」は天気のことわざ。ツバメは地上5、60メートルの高さを飛ぶ昆虫類をエサにしている。最近「ツバメ便り」が少なく
なったといいます。農薬の影響で虫がいなくなり、巣作りに使われる泥やワラくずも少なくなり、ツバメを迎える環境の変化が原因ではないかと著者。
ツバメといえば、昨年私の家の玄関にツバメが巣を作りましてね。5羽が育ってアジアのどこかの国へ旅立っていきました。そのツバメがまだ4月だ
というのに戻ってきました。感動です。「ツバメの飛来早い年は豊作」なのだそうです。また、ツバメが巣を作るといいことがあるって昔から言われ
てますが今年何かいいことあるのかどうか。

8月の章から「桃栗三年柿八年」というたとえを一つ。「実がなるまでの年数を示しているわけだが、何事も時期が来なくては達成できないこと。これ
に続けて「柚子は九年でなり始め、梅はすいすい十三年、梨の大馬鹿十三年」というのもある。梅のすいすいは酸っぱいという意味にかけた言葉で、
梨の大馬鹿は能力の「なし」に結び付けた表現であろう。年数の正確さはともかく、早く実のなるもの、時間がかかるもの等、その多様なことは事実で
ある。これをもじって新家庭の成立模様を、遣り繰り三年、恥じかき八年、融通十三年で成りかかるとか。著者は「これを地でいった」と書いてますが、
さてわが家の成立模様は。

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